昨日もピアノ。
六本木はサントリーホールにて、「酒井茜&マルタ・アルゲリッチ ピアノ・デュオ・リサイタル」。
表紙込み12ページの公演パンフレット付。
表紙込み16ページのツィメルマンさん(3月)程ではないですが、仲々の出来です。
リーフレットはカジモトのサイトからダウンロードできますので、こちらからどうぞ↓
KAJIMOTO | コンサート | 酒井茜&マルタ・アルゲリッチ ピアノ・デュオ・リサイタル
カワイ の最高峰Shigeru Kawaiの搬入が遅れたのかどうかは知りませんが、寸前まで調律の音が聞こえたホールの扉が開いたのは開場から20分後の18:50頃、19:00予定の開演も約10分遅れでした。
座席は2階、ステージに向かって左側奥のB席。距離はありますが、流石サントリーホール、よく見え、よく聴こえました。ほぼ満席。プロコフィエフとかストラヴィンスキーとかホントに聴くの?と自分を含めて突っ込みそうになりますが、そこはB席でも1万円のアルゲリッチさんの集客力(注1)。
【プログラム】
モーツァルト: 4手のためのピアノ・ソナタ ニ長調 K.381
プロコフィエフ(プレトニョフ編): 組曲「シンデレラ」op.87
ストラヴィンスキー: バレエ「春の祭典」(作曲者自身による編曲)
(アンコール)
第5曲 妖精の園
第3曲 パゴダの女王レドロネット
注目は、2014年ラ・フォルジュ・ルネとルガーノで絶賛を浴びたという「春の祭典」の再演。
ルガーノ・ライヴ盤の「ロックのようなリズムとテンポ」というライナーノーツが、ロック畑の人の興味をそそります↓。
ストラヴィンスキー : 「春の祭典」 他 (Stravinsky | Prokofiev | Ravel / Akane Sakai | Martha Argerich)
- アーティスト: 酒井茜,マルタ・アルゲリッチ,ストラヴィンスキー,プロコフィエフ,ラヴェル
- 出版社/メーカー: King International
- 発売日: 2015/08/20
- メディア: CD
- この商品を含むブログ (1件) を見る
まずモーツァルト。アルゲリッチさんは言うまでもないとして、酒井さんの指もよく回った軽やかな演奏。モーツァルトからの1曲めは躓き易いとの偏見を私は持っていますが、すんなり聴かせてくれるのは、酒井さんが当日練習をきちんとされている人だからでしょう。(注2)
続くは、ミハイル・プトレニョフ氏がアルゲリッチさんとのデュオのために編曲した、プロコフィエフの「シンデレラ」組曲。元々クラシック・ピアノ界頂上バトルみたいなテクニカル・デュオ曲なので、明度低めながらも彩度が高くスケールの広い曲に、変幻自在のアルゲリッチさんのテクニックが爆発。気合いの入った酒井さんも全力で付いていきますが、コントラストの強いこの曲の、スロー部・弱音部でのニュアンスを出し切れていなかったのではないでしょうか。私の耳には新ウィーン楽派的グレー系モノトーンとして入ってきました。ピアノは第1、第2とも同じなので、楽器でなく奏者の違いだと思います。
----------
10/3追記
アルゲリッチさんはスタインウェイだったらしく、楽器は一緒ではありませんでした。
----------
とネガティヴなことを書きましたが、その辺は場数の差でしょうか、「春の祭典」は違和感なく聴けました。テクニックのキレは違いますが、それは仕方ない。フォルジュ・ルネ/ルガーノは聴いていないので、それらと比較してどうかは分かりません。
でロックっぽいかというと、うーん🤔、そうでもないかな。確かにリズミカル(で変拍子)ですが、即興的な緊張感を期待すると、どうしても埋め難い技量差がある場合、シロッコに蚊トンボ扱いされるGMⅡ(注3)か、必殺技を掛けても底無しの鶴田に吸い込まれる長州(注4)か、釈迦如来の掌を飛び出せない孫悟空(注5)か、フツーに音楽で例えればラリー・コリエルの「四季」(注6)みたいな。ボーっと聴いていると同じように聴こえても、アルゲリッチさんに余裕有り過ぎて「激しいインプロヴィゼーションの応酬」的展開にはならないので、聴く側としてはどうしても熱くなり辛いところがあります。
アンコールのマ・メール・ロワは、アルゲリッチさんの独壇場。酒井さんがいいとか悪いとかでなく、アルゲリッチさんが奏でるラヴェルの色彩は別格なので。そう言っている割に、第5曲を忘れていた私は、聴き始めドビュッシーだと思いましたがwww
2人は、時には手を繋いで、何度もステージに登場し、四方の客席に挨拶するため何度もステージを周回し、にこやかに去っていきました。
昨年11月のキング・クリムゾン、今年3月のツィメルマンさんのエントリーから再度引用
これは軒並み古希を迎えている巨匠たちを、見れるうち、聴けるうちに見、聴かないと後悔するぞ
クラシックでのこれのきっかけはポリーニさんですが、好みに合わないポリーニさんは聞き逃しても後悔しない(注7)として、念頭にあったのはアルゲリッチさん。
何せ御歳78歳、太平洋戦争前のお生まれです。
が、
50年前の危険な香りこそ感じませんが、「いまだ健在」と評しては失礼過ぎる、微塵の衰えも感じさせない技術と表現力。腕の動きが小さい、時折頭を振ってリズムをとりながらピアノを歌わせる泰然とした姿は、神でなく菩薩。アルゲリッチ菩薩。
来年も聴きます。既に数件ブック済。
尚、酒井さんに対してフツーに厳しいのは、「(生きているうちに)聴けてよかった!」という巨匠ゲタ(注8)を履かせる必要がないからです。
怒涛のコンサート・ラッシュで7〜9月の四半期(10月1日を含む)は、特に興味の深かったものはほぼ聴けました。
パフォーマンスではフォーカスとチョ・ソンジンさん(後半)、リスニング環境としてはマグマのEXシアター3階席とサントリー・ホール、コスパは6,500円のチョ・ソンジンさん圧倒。名前を挙げていないアルゲリッチさんは別格なので殿堂入り。
余韻を楽しむため、明日の通勤時はアルゲリッチさんのラヴェルを聴こう。(ソリスト基準で買ったものでだけ持っているアバド盤。)
ラヴェル:ピアノ協奏曲、左手のためのピアノ協奏曲、古風なメヌエット、クープランの墓他
- アーティスト: マルタ・アルゲリッチ、ベロフ、アバド、LSO
- 出版社/メーカー: インディペンデントレーベル
- 発売日: 2014/08/03
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
注1:プライシングは、アルゲリッチさんでなく、強気のカジモトさんのマターでしょうけども。
注2:プロは公演曲弾くのかエチュード弾くのか知りませんが、オーディエンスとしてはそういうもんだと思っています。
注3:機動戦士Zガンダム第11話
注4:1985年11月4日大阪城ホールにおけるジャンボ鶴田v.s.長州力戦
注5:西遊記 ってこれは注釈要らないか。
注6:ジャズ・ギターの第一人者とされるラリー・コリエル氏を以ってしても、ギター界随一のヴィルトゥオーゾ山下和仁氏にはまるで歯が立たなかった、という記録。「四季」。
注7:持っているグラモフォン/デッカのショパン全集は、ポリーニ盤であるが故にピアノ・ソナタ集だけ聴く回数が妙に少ない。
注8:アルゲリッチさんにはそもそも要りませんが。