木曜日はサントリーホールでした。
この日はプライベート優先です。会議を終えた終業時刻10分前に会社を出て、サントリーホールに向かいました。朝は早出していたので、2時間程の残業ありですけども。
小林愛実さんのソロ・リサイタルです。
サントリーホールでのソロ・リサイタルは、14歳、当時史上最年少での公演以来だそうです。
生憎ホールのウェブサイトにも公式ウェブサイトにもフライヤー/パンフレットへのリンクはありません。
嫁とのポーランド繋がり(ワルシャワの日本大使館で「見た」くらいのレベルですが)で心情的に応援していましたが、元々ライヴ行かなかった私、彼女をライヴで聴くのも今回が初めてです。
発売直後にチケットが完売蒸発しただけあって、ほぼ満席でした。
シートは1階最後尾、ライブ配信用遠方カメラより遠かったです。
カジモト・イープラスの先行予約が裏目に出たかもしれませんが、先行で完売してチケットがぴあやローチケなどに回らなければ入手自体できなくなるので、難しいところです。
石丸幹二さんやTBSテレビ他からの花。世界を飛び回る彼女は当然にリモワ愛用者のようです。
【プログラム】
シューマン:アラベスク Op. 18
シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D. 958
ショパン:24の前奏曲 Op. 28
ショパン・コンクール、圧巻のセミ・ファイナルの再現期待です。セミ・ファイナルは彼女のプレリュードがNo.1だったと私は確信しています(公表された採点表によると彼女の獲得スコア平均点は2番、1番のブルース・リュウさんには及びませんでしたが)。控えめに言って必聴です。
ステージに出てきた愛実さん、ドレスの裾を踏んで躓き、会場の空気を和らげました。
椅子に掛けた愛実さんがネックレスを手にするルーティンを終えて最初に紡ぎ出したのは、温かく優しいアラベスクでした。最近の彼女は、柔らかいトーンが素晴らしいと思います。いやライヴで聴くのは初めてなので、私はそんな知った物言いをできる立場ではありませんが。
シューベルトは、これまた一つ彼女の魅力である、音がコロコロと転がり、跳ねる快活さがよく出ていました。彼女はモーツァルトの録音がなく、映像も天才少女と騒がれていた当時のものが多いのですが、(多分最近では唯一のモーツァルト映像である)一昨年の「題名のない音楽会」での反田恭平さん、藤田真央さんとの共演によるピアノ・ソナタ(注1)を聴くと、早くモーツァルトを録ってくれと切望せざるを得ません。
休憩を挟んで、愈々プレリュード。
圧倒的な集中力で魂を削るような演奏を聴かせたショパン・コンクールでしたが、「あの演奏は重過ぎる」と感じるリスナーにはいい具合に緩かったです。視聴可能な2020年コンクール前の演奏よりも、コンクールやこの日の演奏はショパンの心情に迫る表現の深みが大幅に増していまして、やはり私としては不滅のリファレンス、アルゲリッチ盤(注2)に比肩します。というかリアル体験による感動ブーストもあるでしょうが、アルゲリッチ盤をも超えた印象があります。彼女のプレリュード(注3)を買うつもりでいるのですが、新しい録音であるにも関わらずその後の長足の進歩を遂げて今に至っていることが分かってしまっているだけに、逆に手が出し難くなりました。困ったぞ。
(アンコール)
ショパン:ワルツ第5番 Op.42
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
3回目だかのカーテンコールの後、アンコール1曲目はワルツでした。5番だったと思います(が、あと一歩旋律が弱いために然程好まず覚えきれていない曲の1つなので、違うかも)。正直なところ、次のアンスピのせいで、演奏の優雅さは耳に残りましたが、曲の印象は消し飛びました。
更なるカーテンコールの後にピアノから流れ出したのは、アンダンテ・スピアナートでした。ショパン・コンクールの二次予選でこれもまた素晴らしい演奏を聴かせてくれた曲です。美しく嫋やかな流れにうっとりしながら、アレンジの入った終盤(アンダンテ・スピアナート独奏版なのかオリジナルなのか不明)にアンダンテ・スピアナートで静かなフィナーレを迎えるのだろうとしんみりしていたら、ポロネーズのファンファーレが始まりまして。まさかこの大曲のフルコーラスがアンコールで聴けるとは思っていませんでした。変化の豊かな曲の表情を巧みに引き出し、高らかに歌わせた、ショパン・コンクールの際よりも更に完成度が高い名演でした。これまた私の不滅のリファレンスであるアルゲリッチ盤(注4)が霞みました。これをアンコールでやるのは反則ですね。
カーテンコールが2回、3回と続き、大曲を終えてもう終演と判断して会場を出ていくリスナーが増えるなか、「待て、バックステージへのドアはまだ開いている。」と私が嫁を制していると、何と愛実さんは三たび着席、ノリノリです。
演奏されたのはノクターン20番でした。弱音の表現の深みと美しさに圧倒的な強みを持つ彼女に哀愁漂うこの曲を演奏されては、涙せざるを得ません。
アンコールに大曲を含む3曲を加え、思いの外長時間になりましたが、極めて濃厚な時間を過ごすことができました。
ありがとう、小林愛実さん。
6月のパレルモ・マッシモ劇場来日公演がまたも延期になり、この上期、あとは音楽会の予定ありません。
注1:ここで見れます。
注2:
注3:彼女の最新盤です。
注4: