甘く香るか青いバラ

ロードバイク初心者がディスクロード+EPSを自分で組んだ記録から始めてみる

イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル at サントリーホール

続いては、今年1本目のコンサートにやってまいりました。

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「明日は出勤」の日曜日、19時開演てのが随分遅いのですが、サントリーホールです。

本日は全館停電にして設備を点検するビルが多く(私の職場もそう)、泉ガーデンで夕食にしようと思ったら主だった店は休業、仕方なくアークヒルズ行っても同じ。スタバもDEAN&DELUCAもやってない。開いている店は混んでます。席が空いて見えるのは、入れなそうなテレビ朝日の社食だか何かだけ。止む無く、小雨の中辛うじて屋根の下を確保したテラスでパン。あと10分遅ければ、この屋根すら確保が怪しかったです。パン4点とドリンク2点で2,800円也。昼食と夕食を兼ねたと思えば安いですが、パンとドリンクだけと思えば激高でした。

 

さて。

 

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ポゴレリッチさんのピアノ・リサイタルです。

www.kajimotomusic.com

 

ショパン・コンクール優勝者にヘヴィ・ローテーションを掛けた昨年の基準で言うと「本線落ち」です。が、彼の本線落ちに怒って審査員を辞任したマルタ・アルゲリッチ さんをして「天才」と言わしめた、コンクール史上最大の事件、80年の「ポゴレリッチ事件」の主人公ですね。個性的にして大胆な解釈と演奏で知られる人です。鬼才とか天才とか呼ばれています。

一時演奏活動が停滞していましたが、只今絶頂期にある方ではないでしょうか。

 

《プログラム》
J.S.バッハ: イギリス組曲第3番 ト短調 BWV808
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第11番 変ロ長調 op.22
ショパン舟歌 op.60
      前奏曲 嬰ハ短調 op.45
ラヴェル: 夜のガスパール

 

ショパンYes! ベートーヴェンNo!の私としては、来年のオールショパン・プログラムの方が嬉しい気もしますが、今年は生誕250年のベートーヴェンが入らないプログラムを選ぶのは仲々難儀。一般発売時にはソールドアウトしていたりするポゴレリッチさんなので、プログラムの好き嫌いや次年度公演予定を確認するまでもなく、キャンセン/リセールの無いカジモト先行で勝負買いするしかないのです。(注1)

バッハもラヴェルも好みだからいいですけども。

 

今日の席はサイド2階。ポゴレリッチさんの真後ろ。奏者に1番近いB席。

 

流石に外は寒いのでさっさと入ります。客席への入場が可能になる18:30過ぎ間も無く着席。

まだ調律やってます。ニット帽を被り、丹前で厚着した、背中の丸まった老人。しかし、ピアノの左肩には楽譜が置かれ、ピアノから流れるフレーズは「舟歌」。怪しい。実に怪しい。開演寸前まで続いた調律が終わり、相当腰の曲がった老人は袖にハケてきました。客席からパラパラと拍手、私も拍手。目が青いぞ、調律師(笑)。

 

開演前アナウンスが日本語で流れた後、同じ内容のアナウンスが、ポゴレリッチさんによる英語で流されました。

「十分な耐震構造を持っているので、地震の際は落ち着いて係員の指示に従って退避してください」だそうです。

お茶目なおっさんだな。

 

開演、テールコートを着た大柄な白人が落ち着いた足取りで入ってきました。前回のリサイタル、若いハリトーノフさんの半分のスピードでした。

演奏のレビューです。

「安定した変態」とかパンフレットにありましたが。

バッハ:彼流の「理性的デフォルメ」は、思ったより大人しめで、意外な程端正。モーツァルトベートーヴェンによって技法が進化する以前の作曲家、特にバッハは技法が厳格なだけに、教条的忠実さで楽譜通り弾かれても退屈するのですが、そこはポゴレリッチさん、当に楽譜に表現された作曲家の意図に忠実なんだろうなと思わせる演奏でした。

「コンポーザーの意図とは?」ということをつねに考えて解釈を創り上げています。

音楽の友社2018年12月のインタビュー(2019年3月22日公開)より

https://ontomo-mag.com/article/interview/pogorelich-20190307/

ショパン・コンクールから40年、この演奏には賛否は巻き起こりませんね(いい意味で言っているつもり)。嫁評:大変耳触りのいい演奏。

ベートーヴェン:当時の傑作、今は忘れ去られ気味の11番は、バッハの影響が強いですが、拍手なくすぐに始まった演奏がそれをより強く感じさせます。そういう演出なんでしょうね。タッチの柔らかい弱音と速いパートの対比が美しいですが、メロディが耳に残り難い曲でした。嫁評:すごーく印象にない。

ショパン:定番舟歌と比較的馴染みがない晩年の前奏曲。「1音1音磨き抜かれた」というのとはまた違った、自然な柔らかさを持った美しい演奏でした。聴き倒した曲の難しいところ、慣れたツィメルマンさんの舟歌と比べて必ずしも「いい」と言い切れないところですが、あまり聴いていない前奏曲はよかった。ポゴレリッチさんの演奏、ゆったりしたテンポとアタック音が聞こえない柔らかな弱音が印象的でした。嫁評:よかった。

ラヴェル: ショパンノクターンのような美しい夜でなく、不安と不気味さを感じさせる夜は、引き続き美しい弱音と難曲をさらりと弾きこなす超絶テクニックで圧倒。フランス印象派の濃い青でなく、黒。月も出ていない暗い夜でした。嫁評:分からない。

 

以上、ポゴレリッチさんは当然暗譜で弾けると思いますが、終始譜めくりを付けて、楽譜を前にして演奏していました。

 

圧巻の演奏後、ポゴレリッチさんは悠然とした姿で、でも満足気な顔でステージを去っていきました。

アンコール演奏はなし。開演から2時間15分。

 

公演パンフレットは500円。B5版20ページ。

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ポゴレリッチさんのインタビューも載っていますし、仲々お買い得ではないでしょうか。

 

注1:ここ数年は2月の来日公演が定例化しているようなので、レア度は少し下がっているかもしれない。