ヴィスワ川に浮かぶヴァヴェル城。
ポーランドはどこに行ってもヴィスワ川があります。まさに母なる川です。
いよいよファイナルです。
課題曲はたった2曲からの選択、協奏曲第1番か第2番です。
大多数のコンテスタントが第1番を選択し、歴代の優勝者で第2番を弾いた人は2人しかいません。でも私の協奏曲第1番のリファレンス、アルゲリッチさんは第2番を用意していたのに周りの勧めで第1番に変更し(注1)、それで圧倒的な演奏をしたということだそうです。
内省的でドラマに乏しく、映え難いので難しいですよね、第2番は。勝っている人も少ないので、積極的にも消極的にも選び難いんでしょう。
超絶に大雑把なピアノ協奏曲第1番解説
私はホ長調だの転調だの言われても、感覚的には分かっても技術的には全く分かりませんが、この史上最高のピアノ協奏曲は、非常に分かり易い曲です。
- 第1楽章 当時の主要な楽壇であるパリでの成功を目論み青雲の志に燃えつつも、不安に思い悩むショパン
- 第2楽章 恋も両親も友人も街も大地も全て振り払って去ろうする愛する祖国ポーランドへの想いが去就するショパン
- 訣別の思いを胸に自らを奮い立たせて再び旅立ちを宣言するショパン
まあこんだけです。
起承転結でいうと、起→転→昇結ですね。
このストーリーを、切なくも力強く、哀しくも朗々と歌い切った演奏からは、この青年ショパンの心象風景が鮮やかに目に浮かびます。
今回のコンクールでコンテスタントと共演するワルシャワ・フィルを率いる指揮者は、2019/20シーズンから音楽監督に就任しているAndrey Boreykoアンドレイ・ボレイコさんです。
一昨年来日し、ラファウ・ブレハッチさんとそれはそれは素晴らしいショパンのピアノ協奏曲第1番、第2番を演奏しています。
liprofumodellarosa.hatenablog.com
どれぐらい素晴らしいかというと、この公演を収録・放送しなかったNHKのサボタージュに怒りが収まらないぐらい。
ヤチェク・カスプシクさんが振った前回2015年の第17回コンクールは、テンポがあまりに遅いことがファイナルの波乱要因にもなって物議を醸したようですが、ボレイコさんはオーソドックスなスタイルでソリストの美点を引き出してくれる指揮者です。きっと素晴らしいファイナルを演出してくれます。
ちなみに第17回トップバッターのチョ・ソンジンさんの時の序奏の演奏時間は4分25秒でした。(時間は全てストップウォッチによる手計測=大凡の数字)
10月18日ファイナル初日
Kamil Pacholec, Poland
第1番×スタインウェイ479です。
終始表情が固かったです。
序奏4分8秒、ちょっと遅い印象。
第1楽章、第3楽章のディナーミクがかなり抑え気味でした。第2楽章の弱音の美しさもあまり出ていない印象。
唯一ライヴを聞いたことのあるコンテスタントなので応援の気持ちを持ってウォッチしてきましたが、二次予選以降輝きが見られなかったと思います。21歳の若者らしく伸び伸び弾いてくれればいい演奏を聴かせてくれたと思うのですが、地元ポーランドでトップバッター、プレッシャーに潰されたのかな。
ハグしたボレイコさんの表情は、「よく頑張ったね」だったと思います。
Hao Rao, China
第1番×スタインウェイ479です。
序奏4分0秒、少し速くなりました。私はこの辺が理想だと思いますが、コンテスタントとのリハーサル/打ち合わせで調整しているんでしょうかね。
結構大きく振ってきました。特にアゴーギク。
メカニックには不足ないですが、感情的な掘り下げが深まっていかず、情景が瞼に浮かんでこない第2楽章でした。それを埋め合わせるようなディナーミクを第1、第3楽章で表現し、二次予選のクオリティが出せれば上位入賞できると思うのですが、ここで17歳が出たかなと思います。
パホレツさんと同様、相当緊張していたのでしょうか。終演時の彼の表情は、「開放された安堵」だったと思います。
BOSE Soundlink miniは彼の演奏の途中でバッテリー切れし、次の反田恭平さんの時は充電クレードルに載せたので、音が遠くなりました。
反田恭平, 日本
第1番×スタインウェイ479です。
非常にリラックスした表情でした。
序奏は3分55秒。
流麗さがもう少し欲しい印象はありましたが、テンポをゆっくり取って1音1音を美しく紡ぎ出す演奏でした。オーケストラとの息も合い、3人目にして初めて本格的なコンチェルトを聴かせてもらいました。
演奏後、ボレイコさんとは握手の前にまずお互いお辞儀。大変満足げな様子で舞台を降りました。
ここまででは反田さんの演奏が圧倒的だと思います。
Leonora Armellini, Italy
第1番×ファツィオリです。
序奏は4分7秒。
反田さんのリラックスとも違う、余裕を感じさせる表情でした。
大幅にテンポを緩め、切なく美しく、且つ深みのある響きを第2楽章で奏でました。説得力があったので、このアゴーギクはやり過ぎには感じませんでした。
第3楽章では一転して軽やかに煌びやかに行って欲しかったのですが、第2楽章がそのまま続いた感じで、青年ショパンの若き決意が伝わらない優柔不断な印象があり、聴いている私の気分がアガらないうちに演奏が終わりました。
大変満足気な表情で、唯一カーテンコールに呼ばれましたが、こういう演奏なら第2番の方が良かったのではないでしょうか。
まず初日の4人聴き終わりました。
私の暫定1位は反田さん、2位はアルメリーニさんですが、ちょっと差があったのではないかなと。
Youtubeのコメント欄は、反田さんが圧勝しています。最終結果も期待できる好演だったと思います。
明日も日本時間1時スタートです。
注1:出典はこちら↓。
「ショパコンファイナル、どちらを選ぶ?」(ショパン 2017年8月号) | ピアニスト・文筆家 青柳いづみこオフィシャルサイト